音の魔術師
2010/11/19
吹替版を制作するにあたって「元となるオリジナルの音に合わせる」ということは、とても気を使う要素のひとつです。
話者の声に近い声優をキャスティングするという点を思いつく人は多いと思いますが、“合っている”と思わせる要因はそれだけではありません。
2人の人物が会話するシーンがあったとします。コンサートホール、公園、自宅の寝室、キッチン。そして広い部屋、狭い部屋。あるいは電話越しなど、シチュエーションは様々です。
よく思い直してみると、それぞれの場所や声の強弱により、聞こえ方が変わりますね?
“響き方”が違うのです。日頃、何気なく聞いている音は部屋の大きさや壁の材質によって様々な響き方をしています。
吹替で演じる役者の声は、それとは異なり基本的に全員一緒にひとつの部屋(スタジオ)で、まったく同じ条件で収録されます。
その収録した声を、後からシーンに合わせてひと言ずつ響き方を変えていくのです。
この作業により、ひとつのスタジオでしゃべっている声を各々の場所で会話しているかのように変化させ、違和感のない響きにしているのです。
この作業を行うのが録音ミキサー、音響演出家といった音響制作者と呼ばれる人たちです。
とても細かい作業ですが、プロの耳と特殊な加工ができる機械を使って元の響き方に合わせて加工をしていきます。
まるで音の魔術師のように…
この次に吹替版を観たとき、ひとつひとつの響きに耳を傾けてみて下さい。
小さな声にも数々の手が加わり、ひとつの作品が出来上がっていく過程が感じられるかもしれません。